ひきこもり青年の就労支援
変化を起こすキッカケはしかけられるか
本人が何かを始めようとする心の変化のキッカケがあったら事例で教わりたいと思います。
機が熟すまで時間を重ねる必要があるのでしょうか。
「親御さんや治療者の一言」などといった、わずかのきっかけで、事態がみるみる好転し始める、などという「美談」は、テレビとか本とかではよく見られますが、実際には滅多にありません。
短気的な変化なら私もそういう経験はありますが、じきに元に戻ってしまいました。
ひきこもり事例に限らず、治療全般に、そういうことは期待しないほうがうまくいくと思います。
治療も対応も、地を這うような地道な働きかけと粘り、これに尽きます。
時間を重ねること、あきらめず対応すること、安定した態度をとり続けること、これらを組み合わせていけば、必ず改善は訪れます。
そういう基本的な条件がそろっていてはじめて「きっかけ」が意味を持つとも言えます。
ペット、昔の友の電話、訪問カウンセラー、そのほかさまざまな出来事が変化のきっかっけになります。
ただし、これは意図的に起こせるものではありません。
一種のハプニングとして起こることが多く、マニュアル化にはなじまないでしょう。
たとえばご家族の入院など家庭内の不幸でさえも改善のきっかけとなるわけですから。
むしろ大切なことは、そういったハプニングをチャンスに生かすことができるようなご家族の柔軟な態勢ではないでしょうか。
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就労支援の実態
「ひきこもり」の就労支援体制はどうなっているのですか?
「ひきこもり」の事例の克服を試みる場合、就労をゴールと考えません。
ただし、デイケアなどである程度仲間関係が生まれ、活動的になってくると、ほとんどの人が進学や就労を望むようになることも事実です。
そうなってくると、そこから先がかなり大変になります。
景気の低迷が続く中、失業率が上昇し、若者の就活苦による心の病気が急増しています。
そんな中で、すでに履歴上のハンデを負った「ひきこもり」経験者が就労を目指すことは、大変な困難をともないます。
終身雇用制が崩れ、学歴も以前ほどは絶対視されなくなりつつあるとはいえ、いまだに履歴書の空白期間は、就労の大きな妨げになります。
こうしたハンデを、どのように克服していくかは、依然として大きな課題です。
一般に、ひきこもり青年の就労支援は、ハローワーク等の「一般就労支援」と、障害者職業センター、障害者就労・生活支援センター等の「障碍者就労支援」と、両面での連携が重要となります。
これは本当は、あまり好ましい状況とは言えません。
長年ひきこもり状態を経験した人にとっては、いきなり一般就労はハードルが高すぎます。
しかし障害者と割り切って作業所を利用するのもためらいがある。
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本当に必要なのは、ブランクが長いためにすぐ一般就労には届かないものの、経験を重ねればその可能性が十分にある、という人向けの、いわゆる「中間労働」の場所なのです。
とはいえ、ここで理想論を語っても仕方ありません。
段階的に一般就労を目指すために、現在利用可能な窓口について考えてみましょう。
まず、全国どこでも利用可能な窓口としては、地域若者サポートステーション(サポステ)を筆頭に、ジョブカフェ(若年者就業支援センター)、ヤングハローワークなどがあります。
これらは、一般就労を一応は目指すものの、ハローワークのように就労へ向けて強力に背中を押すというよりは、キャリアカウンセリングを受けて適性を調べたり、就労体験者の話を聞いたり、利用者同士が交流する機会を持つなどして、徐々に就労へのモチベーションを高めていけるような場所として運営されています。
個人的には、サポステが全国的に利用できるようになったことは大変ありがたいことでした。
公的な就労支援窓口として、はじめて本当に利用価値の高い場所ができた、と感謝しています。
サポステの事業内容には、事業所ごとにかなりの幅がありますが、おおよそ以下の通りになります。
・相談支援事業・・・キャリアカウンセリングを含む総合的な相談支援および、必要に応じ心理カウンセリングも実施します。
・職業意識啓発事業・・・若者キャリア開発プログラム(ジョブトレーニング、職業ふれあい事業)を実施し、職業意識の啓発を行います。
・コーディネイト事業・・・地域の若者支援機関のネットワークを活用し、各機関のサービスが効果的に受けられるようネットワークを通じて誘導し、必要な支援が継続的に実施されるよう一元的にフォローします。
つまり、サポステを主軸として、ジョブカフェやハローワークといった職業紹介機関、若者自立塾、引きこもり・発達障害者・不登校の支援を行っているひきこもり地域支援センターやNPO団体などとネットワークを作って、効率よく就労支援がうけられるようになっているわけです。
これを活用しない手はありません。
事業所によっては家族相談窓口があったり、アウトリーチ(訪問)型の支援がうけられるところもあります。
この項目ではサポステの解説のみにとどめますが、民間にもトレーニングから就労先の紹介までサポートしてくれる就労支援団体があります。
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また、鳥取県のように、ひきこもり地域支援センターが中心となって、きわめて有意義な就労支援を行っている自治体もあります。
こうしたユニークな活動をしている自治体としては、和歌山県田辺市、秋田県藤里町などがあり、また東京都立川市のNPO法人「育て上げネット」や神奈川県横浜市のNPO法人「リロード」など、長年にわたり高い実績を上げてきた就労支援団体もあります。
現在展開している就労支援事業を網羅することはとてもでいませんが、サポステを一つのとっかかりとして、地元でどんなサービスが利用できるか、まずは情報収集からはじめてみることをお勧めします。
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自己実現の引きこもり青年
大学生の「ひきこもり」にはどのように対処するか
二十三歳、ことし大学四年の息子です。
就活と卒論が重なり精神的なストレスからひきこもって半年ほどになります。
昼夜逆転で夜中にパソコンに向かっているようです。
最近多少の会話と買い物などはできるようになりました。
この場合社会復帰に向けてまず対応すべきことはなんでしょうか?
就職活動や卒論といったストレスがあきらかに存在し、ひきこもった期間もまだ半年程度という段階のようですから、周囲の人たちがあわてすぎないことです。
こういった場合、過剰なストレスを癒すための、休養としてのひきこもりという意味合いが大きいと考えられますので、十分に休ませてあげることが肝心です。
会話や買い物などが可能になったのでしたら、まずはご家族との接点回復を十分に進めておいてください。
具体的には、買い物に限らず、外食や旅行など、家族が一緒に行動する機会を多めに作り、ご本人をできるだけ外へ誘い出すようにしてみてください。
克服への試み・相談に関しては、このように休養としてのニュアンスが強い事例の場合、それほど急ぐ必要はないように思います。
もう少し様子を見てもよろしいでしょう。
もちろんご家族だけで専門家に相談されておくことはかまいませんし、どうしても不安が強い場合は、むしろ積極的にそうすべきかもしれません。
ただ、ご本人に促したり勧めたりすることは、もうちょっと待ってみてもよいでしょう。
それと、これは念のためですが、大学の籍だけはしっかりと確保しておいてください。
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もしひきこもり状態が長期化した場合、ご本人自ら「親に迷惑をかけたくないから退学したい」などと言い出す場合があります。
しかし、この場合はご本人を多少説得してでも、学籍は温存させておくべきです。
学校や職場に籍があることは、ひきこもっているご本人にとってはつねにプレッシャーになっているので、そこから楽になりたいという気持ちで、退学や退職を強く希望するのですが、ご本人の言うままに手続きをしてしまうと、かえって落ち込んでしまうことがよくあります。
「どこにも自分の籍がない」という現実は、ご本人が予想した以上に重くのしかかってくるものです。
ですから息子さんの場合も、場合によっては多少は説得してでも、学籍を残しておくほうがよいでしょう。
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息子がガーデニングとインターネットに夢中
三十歳の長男は、一時は暴力も振るいましたが、今はガーデニングとインターネットに夢中です。
しかし、そろそろ家から外に行動を移すことが大切のような気もします。
どうすればよいのでしょうか?
これまでも繰り返しふれてきましたように、ひきこもり状態では欲望や意欲が低下しやすいので、ご本人のように夢中になれることがある方はそれだけでも幸いです。
インターネットをなさるとすれば、これはやや外向きの活動と言えなくもありません。
ガーデニングという趣味と相まって、メールのやりとりなどから対人関係が発展する場合もありますので、くれぐれもこうした趣味を抑え込むような対応はなさらないでいただきたいと思います。
年齢的な点から考えても、親御さんが「そろそろ外へ・・・」とお感じになるのも当然のことと思います。
しかしもちろん、議論や説得は無意味です。
直接に交渉するのではなく、さまざまな支援団体や治療機関を通じて、社会参加の糸口を模索するほうがよろしいでしょう。
そうした場所へ親御さんが率先して通い、ご本人を誘いながら巻き込んでいくことをお勧めします。
ただし、けっして強引にはなさらないでください。
そのようなご両親の動きに触発されて、必ずしもご両親の進める方向とは限りませんが、ご本人も対外的に動き出す可能性があります。
もし自発的な動きが出るようであれば、こちらも干渉せずにご本人に任せていただきたいと思います。
もちろん治療を通じてデイケアや作業所などを利用してみることも一法です。
クラブのような場所でなくとも、地元の社会資源を利用することで、うまく社会参加につながったケースもあります。
いずれの可能性も考えつつ、まずは実際に動きはじめてみることをお勧めします。
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ひきこもり青年の自立を支援する
デイケアに行くことができない三十五歳の息子
三十五歳の息子ですが、長いひきこもりの最終段階にも思えます。
主治医から勧められてもデイケア等への参加ができません。
親としてももうそろそろかと思うのですが、どうしたら本人をその気にさせることができるでしょうか?
馬を水飲み場まで連れて行くことはできても、無理に水を飲ませることはできません。
ひきこもりの人を馬に例えたりして申し訳ないのですが、私たちの仕事はまさに水飲み場を作って、なんとかそこまで誘導するところまでです。
実際に水を飲んでもらえるかどうかは、完全に当事者の決定に委ねるほかはありません。
それでも促すことくらいは可能ですが、すでに通院治療を受けている段階では、これはもう親御さんの仕事ではなく、治療者の仕事として考えたほうがよいと思います。
ご家族が促すことはかえって逆効果になりかねませんから、ご心配でしたら治療者のほうに相談されるのはかまいませんが、ご本人にはあまりやかましく言わない方がいいでしょう。
外出時、母親が付き添うのは有害か
二十五歳の次男は十年間ひきこもり生活から、最近少しずつ社会復帰を目指しつつあります。
しかし、例えば新幹線の切符の買い方や乗り方など一つずつおしえなければならず、遅れを取り戻すのに時間がかかると思いました。
母親が誘わないと行動しないのですが、付き添ってばかりでは自発性が損なわれるのでは、と迷います。
たとえお母さんと一緒であっても、外出したりいろいろな行動ができたりすることは文句なしに素晴らしいことです。
社会的なスキルの回復が不十分なうちは、ある程度手取り足取りでやらざるをえないのも仕方がないでしょう。
十年間ひきこもっていたとなると、一人で外出したり電車に乗ったりすることの不安感や恐怖は、我々の想像を超えたものがあると思います。
もしご本人任せにしてしまったら、こうした恐怖に圧倒されて外出も活動もしなくなり、ふたたび自発性が弱まってしまう可能性が高いのです。
外出にお母さんが付き添うことで、自発性が損なわれるおそれは、まずないものと思います。
どんどん誘い出して外出の機会を増やし、全体的な活性化をはかるほうがよいでしょう。