多くの経済的な公的支援
・息子はひきこもって二十年、もう四十歳近い年齢になってしまいました。
親が高齢になるにつれて経済的負担に今後耐えていけるのか不安です。
公的支援は望めるのでしょうか。
・本人が「自分は精神的障碍者だから申請すれば手当がもらえるはすだ」と最近言い出しておりますが、障碍者手当は申請すれば本当に利用できるのでしょうか?
どのようなサービスを受けるにしても、まずご本人が医療機関にかかっていることが前提となります。
治療を受けていなければ精神障害とは認定されません。
まずこの点をお忘れなく。
「ひきこもり」事例を抱えるご家族にとって、福祉サービスは、非常に重要な問題です。
この項目では、「ひきこもり」に関連がありそうなものに限定して、その概要を少し詳しく述べておきたいと思います。
ただし、ここでは紹介適度の内容になりますから、より詳しいことについては、まず担当医にお尋ねください。
もちろんweb上にもサービスの情報はたくさんあります。
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精神障害者保健福祉手帳
精神障害のため長期にわたり日常生活や社会生活に不自由がある人を対象として、福祉手帳が交付されます。
手帳の交付を受けると、日常生活や社会生活に障害があることが証明され、生活面でさまざまな支援がうけられます。
手帳の等級は、障害の程度によって1.2.3級まであります。
自立支援医療費給付手続きの簡素化や生活保護の障害者加算、駐車禁止除外指定車標章の交付、交通機関の運賃減免、公共施設等の利用料減免、自治体運営住宅への入居優先などがあります。
ほかにも携帯電話料金の障害者割引サービスや映画館や劇場の入場料金などに割引制度があります。
ただしこれらのサービスは、自治体や等級によって異なることがあるため注意が必要です。
また、手帳を持っていれば、就労に際して「障碍者枠」を利用できます。
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自立支援医療制度
精神科に通院している場合、障害者自立支援法に基づく自立支援医療制度(精神通院)を利用できます。
これは精神疾患により通院医療が継続的に必要な方の医療費の自己負担分を公費で負担する制度です。
この制度を利用することで、通院治療の自己負担額が医療費の一割となります。
ただし疾病の程度や「世帯」の所得状況に応じて、一カ月あたりの自己負担額に上限が設定される場合があります。
診察のみならず、デイケアなどの利用にも使えます。
頻繁にデイケアを活用される方は、この制度を利用されることをお勧めします。
申請は自治体の福祉課などにある自立支援申請窓口で行います。
ここで申請用の診断書をもらい、通院先の担当医に記入してもらい、それをもう一度窓口に行って提出すれば申請手続きは終わりです。
申請後は二年に一度の更新手続きが必要になります。
うっかり更新を忘れると最初からやり直しになりますので注意が必要です。
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障害年金
病気・障害などで日常生活や就労が困難になった場合に支給されます。
国民年金加入者の場合は障害基礎年金、厚生年金加入者の場合は障害厚生年金、共済年金加入者の場合は障害共済年金が、それぞれ支給されます。
ただし、年金を受けるには次の三つの要件を満たしている必要があります。
・障害の原因となった傷病の初診日が国民年金、厚生年金の被保険者期間中または共済組合の組合員期間中にあること。
・障害認定日(初診日から一年六カ月を経過した日)において障害の程度が政令で定められた一定の基準以上の状態であること。
・初診日の前日までに一定期間の保険料が納付されていること。
ただし、二十歳に達する前に初診日(被用者年金の加入期間中ではない)がある傷病で障害になった場合は、二十歳に達したとき(障害認定日が二十歳以上の場合はその障害認定日)に障害の程度が一級または二級の状態にあれば、障害基礎年金が支給されます。
なお、障害年金は精神病でなければ受給できません。
つまり、神経症やPTSDなどの診断では申請が認められないようです。
対象となる疾患名としては、統合失調症、躁うつ病、非定型精神病、てんかん、中毒精神病(アルコール中毒等)、器質精神病(頭部外傷後小後遺症、脳炎後遺症等)、発達障害及び知的障害などです。
また「障害の程度」の等級は下記の通りです。
一級・・・他人の介助を受けなければほとんど自分の用を弁ずることができない程度
二級・・・必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活はきわめて困難な程度
三級・・・労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度(厚生年金、共済年金)
障害基礎年金の場合、一級で年間百万円程度、二級で年間八十万程度といったあたりですが、年金の種類ごとに額は多少異なります。
申請に当たっては精神科医による診断書が必要となります。
もちろん本人がまだ受診していなければ申請は不可能ですし、現在も定期的に通院し続けていることも必須条件となります。
本人には知らせず内密に受給することもできません。
障害ありとみなされることを本人が嫌がったり、家族や親族が不名誉なことだとして反対したりする場合もあります。
少なくとも、本人を含む家族全員の同意を得た上で申請することが望ましいでしょう。
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担当医のOKが出たら、申請窓口で診断書を含む申請用の書類一式をもらいます。
国民年金ならば市(区)役所あるいは町村役場の国民年金担当課が、厚生年金ならば年金事務所が、共済年金ならば各共済組合が窓口です。
もらってきた診断書の記入を主治医に依頼することになりますが、治療歴が長い場合、複数の診断書が必要となります。
申請が通るまでに、数ヵ月間を要することになります。
ただし、申請が通れば障害が生じた時点にまでさかのぼって年金がおりますから、長期間苦しんでこられた方にとっては、金銭面でのゆとりができるという点でお勧めです。
以下、ご参考までに、二、三補足しておきます。
年金の申請が通るかどうかは、かなり地域差があります。
一般的に東京や神奈川は通りやすいようですが、厳しい地域はなかなか通らない場合もあります。
また、年金の申請は繰り返し行うことができます。
一度申請して却下されたからと言って、諦めることはありません。
時期を見て再申請して通ったケースもあります。
逆に一度申請が通ると、その判定を変更(二級から一級にするなど)することは、きわめて難しくなります。
その意味でも、うかつに年金の「免除申請」をすることはお勧めできません。
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免除を申請するくらいなら、むしろ受給申請が可能かどうかについて検討してみることをお勧めします。
「ひきこもり」の人が年金を受給すべきかどうかというのは、これからも考えていくべき問題であろうかと思います。
しかし、克服への試み相談の受け皿に乏しく、就労支援の場所も不十分である現在、すでにある制度を利用して生活の改善を図ることは許されるのではないでしょうか。
現代の精神医療の水準では、ひきこもり状態を統合失調症と申請しても、克服への試み上はともかく、手続き上は誤診にはなりません。
国際的な診断基準である「ICD-10」を用いて、そのように確定診断することが可能です。
私はけっして制度の抜け道を推奨しているのではなく、制度の正しい利用法をご紹介しているつもりです。
年金受給を勧めることは、「ひきこもり」の当事者のプライドをいたく傷つけることもあります。
その意味では、安易に勧めるべきことではありません。
しかし、長いひきこもりから再度社会に関わるに際して、それなりのハンデを背負うことになるという自覚はあってもよいと思います。
そのことは、必ずしも敗北宣言にはならないでしょう。
実際に年金を受給しながら、少しずつ自分が適応できる集団を模索している事例も多くあります。
プライドにこだわり続けるのではなく、いったんスタートラインを手前に引きなおして再出発するという意味で、ご検討いただきたいと思います。
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生活保護
障害の程度が軽い、あるいは保険料の未払い期間があるなどの理由で年金の受給が難しい場合は、生活保護の申請をすることになります。
年金の場合とは異なり、生活保護の場合は、生活費以外にも家賃や医療費、教育費などが生活保護費から支給されます。
ひきこもっている人の「親亡き後」を考えるなら、たとえ年金を受給していても生活保護も合わせて申請するほうがよいでしょう。
現在治療中の人が受給を考える場合、まずは担当医に相談した上で、とりあえず単身生活をはじめてもらいます。
賃貸住宅の場合、自治体ごとに定められた家賃の上限がありますから、あらかじめ調べておく必要があります。
ただ、本人が両親と同居していても、世帯分離の手続きをすれば受給可能な場合もあります。
もちろん不動産を含めて一定以上の資産があれば受けられません。
また多くの場合、就労不能を証明する医師の診断書が必要になりますし、もちろん通院は続ける必要があります。
また障害年金受給が可能な場合は、そちらの優先を勧められることになると思います。
加えて生活保護の場合は、定期的に福祉ケースワーカーの訪問があります。
手続きなどの詳細は、民生委員、市(区)福祉事務所、町村役場福祉担当課にお尋ねください。
高額療養費
入院治療などで医療費が高額になった場合、一定額を超えた分について申請すると、支給が受けられる場合があります。
まずは病院の受付で利用可能かどうか尋ねてみてください。
担当窓口は国民健康保険なら市(区)役所あるいは町村役場、社会保険なら年金事務所になります。
心身障碍者扶養共済制度
心身に障害を持つ者の保護者(=加入者)が、生存中に一定額の掛け金を納付することで、加入者に万が一のことがあった場合に、遺された障害者に生涯にわたって一定額の年金を支給する制度です。
生活福祉士資金貸付制度
生活福祉資金制度は、低所得者世帯、障害者(身体障碍者、知的障碍者、精神障害者)世帯または高齢者世帯に対して、経済的な自立と社会参加の促進を図り、安定した生活を送れるようにするために資金を貸し付ける制度です。
都道府県の社会福祉協議会が実施主体で、低利子・無利子での貸付制度であり、安心して利用することができます。
日常生活自立支援事業
日常生活自立支援事業は、認知高齢者、知的障碍者、精神障害者等のうち判断能力が不十分なものに対して、福祉サービスの利用などに関する援助を行うことにより、地域において自立した生活が送れるよう支援する事業です。
地域生活支援事業
障害者がその能力や適性に応じて自立した生活を送れるようサポートする事業です。
地域の特性に応じたさまざまな支援の形があります。
具体的には、住居や成年後見制度、日常生活用品の給付などの相談に乗ったり、地域活動支援センターなどで社会参加や生産活動の機会を提供したりする事業を行います。
発達障碍者支援センターの活動もこの事業の一環で、発達障害者やその家族の相談に応じており、関係施設と連携しながら地域における総合的な支援体制の整備を目指しています。