内向型の人は特別なケアを必要とする。
エネルギーを保存し、適切なリズムをつくり、内なる資源をまもりつつ目標を達成しなければならないのである。
ここでは、三つのP-ペース、プライオリティ(優先事項)、パラメーター(範囲)の設定―について述べる。
これらのコンセプトは、あなたが自らの内向性に対処するとき役立つだろう。
ペースの設定とは、自分なりのテンポ、つまり、被圧倒感や枯渇感に見舞われずに目標を達成するための速度を設けることである。
また、プライオリティ(優先事項)を設定すれば、あなたは自分にとって真に価値ある目的とはなんなのかをよく考え、その達成のためにエネルギーを注ぐことができるだろう。
そして、パラメーターの設定により、あなたは刺激を―多すぎも少なすぎもしない―ほどよい量に保つための境界線を引くことができる。
これらの助言を取り入れたとき、あなたはより幸せで充実した人生を手にすることになるだろう。
自分のペースを設定する
昔話に登場するウサギとカメを覚えておいでだろうか?
ウサギはカメを負かすくらいわけはないと思っていたので、道の脇でちょっと止まってひと眠りする。
カメはその間にゆっくり着実に歩きつづけ、大慌てで追いかけてくるウサギを尻目に、ゴールのテープを切るのだ。
内向型の彼らは昔から、自分がかなりスローペースであることに気付いていた。
その生理ゆえに、内向型の人は外向型の人よりも、ゆっくり食べ、ゆっくり考え、ゆっくり働き、ゆっくり歩いたりしゃべったりする。
なかには、生涯かけてウサギになろうと頑張ってきた人もいるだろうが、内向型人間はスローダウンしたほうがどれほど幸せになれるかに気付くべきなのかもしれない。
たとえば、Oさんは動くのが遅い。
親友のBさんはウサギなので、ふたりで歩いているとすたすた先に行ってしまう。
Oさんはスピードを上げられず、Bさんより数分遅れて目的地に着く。
たいていの場合、Bさんはすでにあちこちを見ていて、Oさんにいろいろ教えてくれる。
以前のOさんは、他の人たちに追いつこうとしていたが、もうそんな努力はやめているし、それでいいこともわかっている。
人生におけるOさんの歩みはたしかにのろいかもしれない。
それでもOさんは、かなりのことを成し遂げてきた。
大事なのはペースを設定することだ。
ペースの設定は、自分なりのテンポを確立したうえで、先へ進むことを意味する。
こうすれば、エネルギーの需要と供給のバランスをとることができ、燃料不足におちいることもない。
ペースの設定はまた、さまざまな活動を小分けにすることでもある。
一生走り続けるのは無理なのだから、自らの潮の満ち干を知るのは大事なことだ-あなたがいちばん働けるのはいつどんなときなのか、それぞれのプロジェクトにどれだけの時間をあてるべきなのか。
あなたのリズムは他の人とはちがうかもしれない。
内向的な自分のこの部分を受け入れることは、きわめて重要である。
自分なりのペースをつくらないと、あなたはストレスに見舞われ、圧倒され、何もできなくなるだろう。
ぐずぐずしていれば、事態はますます悪くなる。
”大失速”が起こりかねない。
そしてつぎには、不安や憂鬱がやって来る。
不安はあなたをパニックへと駆り立て、あなたは忘れっぽくなったり、集中力や考える力を失ったりする。
また、憂鬱は、あなたを疲弊させ、無気力状態へと引きずりおろす。
ペースづくりのよい面は、それによって、心身をすり減らすことなく多くを成し遂げられることだ。
しなければならないことのなかから、できることを選び出し、そのうえでペースを設定しよう。
そして最後までやり続けるのだ。自分に適したテンポをつくりあげれば、失速は避けられるし、大きな憂鬱、激しい不安に襲われることもない。
ペースづくりは、あなたの生活のあらゆる面で役に立つ。
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内向型と外向型はどこが違う?
内向型人間の心理
生まれつきの内向型
パートナーの内向型、外向型組み合わせ特徴
内向型の子育て
元気と疲労のサイクルを知り得る
自分の体のリズム―エネルギーがいつ最高潮に達し、いつ落ち込むかを知るのは、あなたにとって大切なことだ。
自分の胸につぎのことを問いかけてみよう。
- もっとも集中力が高まるのは、午前か午後か真夜中か?
- 頭がもっとも疲れている、または、もっとも働かないと感じるのはいつか?
- 運動や体を使う作業をしたくなるのは、いつごろか?
- 人と過ごすのがいちばん楽しいのは、一日のうちの何時頃か?
すぐに答えが出せない場合は、日記をつけて、一、二週間、自らのエネルギー・レベルを観察してみよう。
毎日、目覚めたときどんな気分か書き留め、自分自身のアップダウンをメモするのだ(気分を表す楽しいシールを貼るとよい)。
朝のあなたは輝いているのか、それとも、半ば眠っているのか?
午前の十時は、スランプなのか、それとも、本調子なのか?
昼頃は、ぼうっとしているのか、やる気に満ちているのか、あるいは、やっと目が覚めたばかりなのか?
夕方ごろは朦朧としているのか、それとも、元気いっぱいなのか?
夕食後は、子どもとゲームがしたくなるのか、すぐ床につきたくなるのか?
自分のリズムがわかったら、エネルギーのピーク時をもっとも重要な仕事に、谷間を負担の軽い活動にあてて、一日を組み立てよう。
一定のリズムがあるとはいえ、エネルギー・レベルは絶えず変化している。
だからつねに観察をつづけ、必要ならば調整を加えよう。
アーティスト兼心理療法士のJさんは、自分のペースづくりをひとつの科学にまで昇華させていた。
何年にもわたって自らのエネルギー・パターンを観察した結果、彼女は、クライアントとの面談を月曜から水曜までの三日間にぎっしりつめこむのが自分に最適の働きかただと知った。
そうすると、残りの四日間は遊んだり、自宅の美しい英国風ガーデンで絵を描いたりして過ごせる。
彼女はまた、出席する会がいくつまでならお出かけの二日酔いにならずにすむかを正確に知っていた。
やはり別の女性、Kさんはこう言った。
「週末は、映画を見にいくんです。だから今週、入れられる予定はあとひとつだけ。
外出が二回を超えると、わたしには刺激が多すぎるので」Kさんもまた、自分の山と谷を扱う達人だったのだ。
内向型の人は限界を知ることで強くなる
内向型の人は、制限を設けずに、「すべて手に入れろ」「あらゆることをやれ」という社会で育っている。
しかし実際は、だれにでも―ことに内向型の人には―限界がある。
内向型人間に、無限のエネルギーはない。
内向型の人エネルギーは限られており、それゆえ内向型の人たちは、そのエネルギーをどう使うか慎重に考えなくてはならない。
これは、認めがたい事実かもしれない。
その反面、人生をより貴重なものにしてくれる可能性もある。
意識して選択するとき、内向型の人たちは自分のできることに心から感謝するようになるからだ。
内向型の人の中には、自分が外向型の人ほど大勢の友人は持てないし、たくさん働くこともできないし、多くのことはこなせないという事実と折り合いをつけていた。
しかし彼らは、より深い友情をはぐくみ、より意義深い仕事をし、ささやかで静かで貴重な日々の瞬間を楽しんでいる。
内向型であることの利点を知れば知るほど、自分に限界があるという事実は受け入れやすくなるだろう。
これは、あなたに欠陥があるということではない。
限界があること自体は問題ではなく、苦しみをもたらすのは、内向型の人たちの限界に対するとらえかたのほうなのだ。
自らの天性を肯定的に解釈してみよう。
自分自身にこう言おう―「わたしは低エネルギーだ。でもそれもわたしの天性の一部だし、たとえそうであっても自分にとって大事なことはやれるのだ」どうにもならないことで自分を追い込んではいけない。
いったん現実を受け入れてしまえば、あなたは解放されるかもしれない。
それに、だれにだって限界はある。
溌剌たる外向型人間たちにもだ。
ほしいもの―しかし得られないもの―をあきらめるもっとも簡単な方法は、失望を認めることだ。
このステップを省きたがる人は多い。
それは”否認”と呼ばれる。
あなたには、エネルギッシュな体もなければ、気の利いた受け答えの才もない。
それでも平気だというふりをしていれば、あなたはひそかにいらだったり(自らを責めたり)、自分には深刻な欠陥があるのだと思い込んだりしかねない。
また、自分が変わることを期待しつづける恐れもある。
内向型の人たちは、人生の導き手として感情を与えられている。
巨大なエネルギーの塊になれないのは、とても残念なことだ。
その失望を素直に感じれば、悲しみは去っていく。
そして代わりに、たしかにあなたが持っている効率的なエネルギーへの感謝が生まれるだろう。
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内向型人間の楽になる人付き合い
内向型の人の仕事が楽になる方法
生まれ持った内向性を大事に育む
内向型の人が楽に生きる方法
内向型の人は一歩ずつ進んでいこう
楽しいステップ式作文ガイド、「一羽一羽」のなかで、著者のアン・ラモットは、子ども時代、弟が鳥類の研究レポートに取り組んでいたときのことを回想している。
レポート提出までには三カ月の余裕があったが、彼はぐずぐず先延ばしにし、ついに期限は明日となってしまった。
「弟はいまにも泣きそうになりながら、バインダー用紙や鉛筆やまだ開いていない何冊もの本に取り巻かれ、キッチンテーブルに向かっていた。
あまりの作業の膨大さに、彼は身動きができなくなっていた。
すると父が弟の隣に座り、その肩に腕を回してこう言った。
『一羽一羽やってごらん。一度に一羽ずつやるんだよ』」
一日に一ページずつ書いていけば、年末には本が一冊できあがる。
一ページ一ページ。一羽一羽。
それならできそうだ。
細かな部分、小さなステップに分割すれば、成し遂げられないことはほとんどない。
小さなステップのすばらしい点は、たちまち被圧倒感を緩和してくれることだ。
それは内向型の人たちを前に進ませる。
内向型人間は、膨大な作業を前にするなり、その作業にどれだけエネルギーが費やされるかを想像してしまう。
しかし、ステップ・バイ・ステップという方式は、とってもそんなスタミナはないという不安をただちに和らげてくれる。
そして、何よりおもしろいことに―小さく数歩前進すると、あなたはほんとうにもっとやりたくなるのだ。
内向型のクライアント、Dさんは、自分はなぜ手の届きそうもない男性ばかり選んでしまうのか数年間考えたすえ、ようやくまたデートをする気になった。
新しいお相手と会うことを思っただけで、彼女は圧倒され、怖じ気づいていた。
そこでセラピストとDさんは話し合い、一羽一羽作戦を立てた。
決心がつくと、一週目、Dさんは独身者向けの活動も載っている新聞を買った。
彼女はおもしろそうなものをいくつか丸で囲った。
つぎの週は、書店へ行き、デートのガイドブックを物色した。
『無口な人のデート法』が目に留まり、彼女はそれを買った。
三週目、Dさんは、環境保護団体シエラクラブが主催する独身者のためのハイキングに参加を申し込んだ。
当日は、もし気に入った人がいたら声をかけてもいいし、ただハイキングを楽しむだけでもいいことにした。
実際にハイキングに行き、他の参加者と話す機会を持つのが、四週目だった。
職探し、家さがし、修理修繕、パーティーの開催、部屋の模様替え―ほとんどどんな活動も、小さなやれるステップに分割することができる。
大事なのは、じりじり進み続けること、そして、必ずできると自分に言い続けることだ。
ミクロの歩みを重ねることこそ、内向型の人にいちばん適した働きかただ。
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内向型と外向型、対照的な二つの性質
外向型はどのようにして文化的理想になったか
内向型、外向型のリーダーシップ
共同作業が創造性をなくす
内向型は生まれつきなのか
自分にとってほんとうに大事なものとは
自らの気質を評価することを覚え、ペースの調整もできるようになったら、今度はつぎのステップ―プライオリティの設定に進む番だ。
ジェームス・ファディマンはその著書『人生から枠を取り去る』でこう述べている―「一から始めよう。目標を設定することは、あなたの人生のコースを設定することだ」これは、内向型の人にとってきわめて重要な作業である。
というのも内向型の人は、エネルギーを確保し、それを自分にとってもっとも意義深く価値あることに集中しなくてはならないからだ。
プライオリティの確立は、日々の小さな決断から、職選び、配偶者選び、持つべき子どもの数といった人生の大きな選択まで、内向型の人たちが目標を達成する一助となる。
内向型の人のほとんどは、意義を重んじる。
生活のさまざまな側面について考えてみよう。
あなたにとって重要なこととはなんなのだろうか。
意義とは、あなたに活力を与えるもの、朝、飛び起きたい気分にさせてくれるものだ。
それはXであるかもしれないし、Yであるかもしれない。
あなたにとって意義あることとはなんなのか、それを知る手っ取り早い方法は、自分の死について考えてみることだ。
自分の死亡記事に入れたい主な事柄を書き出してみよう。
自分の一生を、新聞記者になったつもりで思い描くのだ。
特筆すべきことはなんだろう?
いちばん誇れることは?
何より気にかかることは?
あなたにとってもっとも意義深いのは、人生のどの瞬間だろうか?
この機会に、あなたがまだ習得していないこと、経験していないこと、成就していないことのリストをつくってみよう。
一生を終えるまでに成し遂げたいことを書き出すのだ。
どんなことでもかまわない。
枠にとらわれないこと。
頭に浮かんでくる考えをどんどん書いていこう。
目標はいつでも変えられる。
一カ月後でも、一年後でも。
このリストは、あなたの墓石に刻まれるわけではない。
これはあなたのリストだ。
あなたが自分に望むことであって、他人があなたに期待することではない。
その点をしっかり頭に入れておくこと。
目標を書き出すのは、たいへんな作業に思えるかもしれない。
恐怖が頭をもたげることもあるだろう-もしも達成できない目標だったら?
適切な目標でなかったら?
何も思いつかなかったら?
あなたは、現実逃避の道を選ぶかもしれない。
課題を丸ごと葬り去り、望みがすべてかなうことをただやみくもに願おう、と。
しかしその場合の結果は、だいたい決まっている。
あなたは自分の人生をコントロールできなくなるのだ。
現実から目を背けるのは、自分の車を他人に運転させ、そのかたわらを走るのと同じことなのである。
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内向型の人間がスピーチをするには
なぜクールが過大評価されるのか
内向型と外向型の考え方の違い
なぜ外向型優位社会なのか
性格特性はあるのか
内向型と外向型の上手な付き合い方
内向型をとことん活かす方法
生き方の優先順位を決める八つのステップ
人生に必要なものを見極めるための八段階のステップを紹介しよう。
1.自分の人生に何が大事かを理解するための第一ステップは、つぎの各分野における自分の目標を書き留めることだ(頭に浮かんだ順に少しずつ書いていこう)。
- 健康
- 余暇
- 家庭生活
- 自己の成長
- 結婚生活、あるいは、パートナーとの関係
- 仕事
- 創造性
- 人との付き合い
- 精神面
- 趣味と遊び
- その他
2.目標のなかからプライオリティ(優先事項)を決定しよう。
3.プライオリティを達成するためのステップを書き留めよう。
4.今週、クリアできる四つのステップを書き出そう。小さなステップにするのを忘れないこと。小刻みに一歩一歩進もう。
5.うまくいかなかったら、何が目標達成の障害となっているのか、自問しよう。
6.どうすればその障害を克服できるか、考えよう。
7.プライオリティを再検討しよう。あなたは今も、書き留めたすべてを求めているのだろうか。少し修正を加えるべきだと思ってはいないだろうか。
8.いくらかでも前進したら、自分にご褒美を与えよう。
内向型人間は、通常、自分のことをかなりよく知っている。
それが内向型の人たちの強みだ。
自分にとって意義あることとはなんなのかを考え、その障害となるものに着目することで、内向型の人たちは自分の真に求めるものだけにエネルギーを注ぐことができる。
例として、八つのステップをある女性がどう進めたかを紹介しよう。
1.健康面での目標は?
なるべく精力的でいられるよう健康を維持すること。
充分に睡眠をとり、栄養のあるものを食べ、ストレッチや運動を欠かさず行うことによって、エネルギーをつねに満たしておくこと。
2.プライオリティは?
健康にもっと注意すること。そのために、よく食べ、規則的に運動し、もっと睡眠をとる。
3.プライオリティを達成するためのステップは?
- 週に四度、ウォーキングする。
- 好きなドーナツを遠ざける。
- 少なくとも一日七時間は眠る。
- 翌月までにヨガの時間をつくる。
4.健康のための今週のステップ
- 一度、ウォーキングする。
- 死んでも、健康的な夕食を二度とる。
- 一度、夜十時にテレビを消す。
- ヨガのビデオを三つ見て、気に入ったひとつを選ぶ。
5.何が目標達成の障害となっていたのか?
- 運動する時間がない。
- 日用品の買い物が嫌いなので、夕食に食べる健康的な食べ物がない。
- 夜遅くにテレビを見ながらくつろぐのが好き。
- スケジュールのどこにヨガを入れるか、決める気になれない。
6.翌週のための解決策
- 運動の時間を予定表に書き込み、楽しいシールを貼る(そうすれば見落とす心配がない)。
- パートナーと待ち合わせて買い物をする。店までの道々、なつメロを歌っていく。自分へのご褒美として雑誌を買う。
- 夜十一時にテレビを消す。音楽をかけて、キャンドルを灯す。
- ヨガのビデオテープを取り出して、一度やってみる。自分の気分に留意する。
7.優先事項の再検討
- オーディオブックを聞きながらウォーキングをする(そのほうがやりやすい)。
- 買物は嫌い。パートナーと一緒だといくらか楽だ。あるものを食べるのが好き。
- 睡眠をたくさんとったほうが、休まった感じがする。
- ヨガは楽しいが、いまのところ優先させたいかどうかよくわからない。もう一度やってみて、自分の気持ちを確かめる。
8.報酬
- ビデオで二度ヨガをしたあと、前からほしかった本を一冊買った。
- 目標に向かって進んでいる自分を褒めた。
- 一週間に四度、湖のまわりをウォーキングしたあと、ローファットのヨーグルトフラッペを自分に振る舞った。
- 三週間、小さな前進をつづけたあと、マッサージをしてもらった。
これでだいたいわかったと思う。
生活の一分野を取り上げて、目標、優先事項、障害、その解決策を考え、一、二週間後に優先事項を見直す。
取り組む分野は、ひとつでもいいし、二つか三つでもいい。
あるいは、経済面など、例に挙げなかった分野を加える手もある。
スカーレット・オハラ風に、明日考えたいならそれもよし。
どんな選択をするにせよ、この方法が非常に効果的であることを心に留めておこう。
できることと、できないことの境界線を決める
自分にぴったりのペースで進みだし、何を成就したいかもわかったなら、今度は適切な境界線を確保する番だ。
パラメーター(範囲)を設定するとは、自分のまわりに線を引くことだ。
たとえば、電話の受け答えがいやなら、「悪いけれど、いま話せないんだ。あとでこちらからかけるよ」と言うこと、すでに予定を入れ過ぎているなら、「来週は忙しいの。そのつぎの週に会えない?」と言うことである。
内向型人間は、時間やエネルギーが許す以上の活動ができないことに、罪の意識を抱きがちだ。
そのため、パラメーターを設けずに、どんな要求にでも応じてしまう傾向がある。
あるいは、エネルギーの供給を見積もるのに失敗し、ひどく厳しい、または、ひどくあやふやな境界線を設けてしまうこともある。
内向型の人は、侵害されて刺激過剰になるのを避けるため、外界の侵入を規制しなくてはならないが、そうしながらも外界に参加することは可能だ。
多くの人は、内向型の人々に自分だけの時間と空間が必要であることを理解しようとしない。
友達をがっかりさせるのはつらいことだし、仕事をいますぐ仕上げてほしいというボスや、遠足のボランティアを依頼してきた子どもの学校の先生に、ノーと言うのはむずかしい。
そんなときは代案を出せば、たいていうまくいく。
相手に何ができないかを話し、つぎに何ができるかを話そう。
友達にはこう言おう―「今日のランチは無理だけれど、来週いっしょにお茶を飲まない?」
上司にはこうだ―「報告書の前半はきょうの午後にできますから、まずそちらを検討していただけますか。後半は明後日に提出します」
子どもの学校のほうは、もし可能なら、だれか代理の人を出そう―「プラネタリウム見学ですが、わたしは都合がつきませんけれど、祖父が喜んで行くと言っています」
内向型のあやふやな境界線は、自分自身を失わせる
人間は生まれつき親と結びついているので、通常、それがどんなものでも、自分の置かれた家庭環境に順応する。
家族の他のみんなが外向型である場合、または、両親が内向型だけれどもそれではいけないと思っている場合、内向型の子どもは社交的であるべきだという強いプレッシャーを感じるだろう。
その子は、家族からとがめられたり、さげすまれたりするかもしれない。
あるいは、孤独を求め、楽しむことに罪の意識を抱く可能性もある。
教師のCさんは、セラピストにこう語った。
「うちの母はよく部屋に入ってきて読んでいる本を手からひったくり、わたしを外に追い出して、家族といっしょに過ごすことを強要しました。
ひとりで休むことは許されませんでした。
自分がなぜ始終疲れているのか、朦朧としているのか、不思議に思いましたよ。
わたしには孤独が必要だったんです。
でも家族のほうはそれを、背を向けているとか、殻にこもっているというふうに見たんです」
内向型の人の多くがそうであるように、Cさんも両親の影響で、ひとりでいたがるのはよくない、人と一緒にいたがるべきだと考えるようになった。
彼女には自分の低エネルギーが理解できなかったし、それをひとりの時間の欠如と結びつけることもなかった。
受け入れてもらえないと感じている子どもたちのたどる道は、つぎのいずれかだ。
1.自らの気持ちは無視することにし、他人の影響を受けやすくなって、人の希望や要求に応じて絶えず自分を改造し、変形させる。
2.家族の影響などぜんぜん受けていないふりをする。
これらの対処メカニズムはごく幼いころ身につくため、大人になってからの彼らはそれを意識していない。
それは、無意識的反応にすぎないのだ。
右脳優位の内向型人間は、無意識のうちに大量の情報を吸収するので、より分けと整理のためのまもられた時間をたくさん必要とする。
ひとりの時間がなければ、彼らは混乱し、ばらばらになってしまう。
左脳優位の内向型人間もやはり、燃料補給の時間を必要とするが、それがなくても右脳優位者ほどぼんやりしない。
ただし彼らは、完全に殻にこもってしまう可能性がある。
物理的、もしくは、精神的に、ひとりだけの静かなスペースを与えられず、刺激過剰となった場合、おそらくあなたは―
- 大混乱をきたし、集中できなくなる。
- 行き詰まりを感じ、やる気を失う。
- 圧倒され、頭が機能しなくなる。
- 被害意識を持つ。
- 自分がそこにいる気がせず、傍からはぼうっとして見える。
- 自分に批判的になり、手厳しい内なる声にさらされる。
- 感情のジェットコースターに乗っているような、制御不能の気分になる。
- 内臓がきりきり痛み、神経質になる。
これらの危険信号が出たら、立ち止まってよく考えよう。
なんらかの制限を設ける必要がないか、自分自身に問いかけるのだ。
あなたは、混乱や不安を感じてはいないだろうか?
パラメーターがあいまいな人々の心の奥底にある恐れは、他人の要求を満たさなければ捨てられてしまうというものだ。
実際には負担を減らすべきときに、彼らはしばしば、人のためにもっとなにかすべきだと感じる。
また、周囲が過剰な要求をしてくると感じて、被害意識を持つこともある。
自らの行動をちょっと見てみよう。
あなたは自分自身の欲求を忘れてはいないだろうか?
できる以上のことをやろうとしてはいないだろうか?
それが本当にやりたいことなのか、また、できることなのか、自分に相談もせず、自動的に人のために何かしてはいないだろうか?
まず、自分にはどんな境界線が必要なのか、考えてみよう。
境界線を設けることは、あなたが自分の人生を取り戻すための大きな武器となる。
凝り固まった境界線は、内向型人間の世界を狭くする
内向型の人のなかには、両親に踏みつけにされている、または、無視されていると感じながら育った人もいる。
この種の(しばしばアルコール依存やネグレクト、虐待が見られる)家庭では、子どもたちが自分のまわりに壁をめぐらせてしまう。
一度も結婚経験のない四十代のある男性クライアントは、セラピストにこう言った。
「母は、わたしが気に入らないことをすると、数日間口をきいてくれませんでした。わたしは毎朝、裏庭に出ていって、クルミの木に登り、暗くなるまでずっとそこにいたものです」こういった人々は、成長とともに、強固な境界線を設けて身を守ることを覚えていく。
彼らはしばしば、他人に背を向けたり、殻にこもったりする。
このことは、周囲の世界と交流する彼らの能力を封じこめてしまう。
左脳優位の内向型人間もまた、凝り固まったパラメーターをつくりあげることが多い。
彼らは、感情や人間関係よりも理屈を重視する。
自らの気持ちを厳しく抑制し、つねに論理的思考にたよるのだ。
こういった人々は、超然たる態度で自らの生活を管理し、だれのためであれ変わることはない。
しかしそうすることで、彼らはある貴重なものを失ってしまう。
人間同士を結び付けるもの、すなわち、情だ。
その他、凝り固まったパラメーターを設けることによって、あなたは―
- 人間関係を、面倒なもの、または、鬱陶しいものと感じるようになる。
- 無力感、絶望感を抱くようになる。
- 追い詰められた気分になり、選択肢が見えなくなる。
- 情緒面で成長できなくなる。
- 支配的になり、他人からきちょうめんで、強情な性質と見なされる。
- 自己に陶酔した批判的な人間に見えてしまう。
- 他人を押しのけるようになる。
もし強固な境界線を持つタイプだとしたら、あなたには、孤独感や身近な人への怒りを抱く可能性がある。
きっとあなたは、悪いのは彼らだと思うだろう。
自分の感じている淋しさを自ら設定したしたパラメーターと結びつけるのは、簡単なことではない。
自分が高い壁をめぐらせていることに、あなたは気づかないかもしれない。
自分が友達や家族や同僚とどんなつきあいかたをしているか、振り返ってみよう。
信頼できるだれかに、あなたに冷淡で批判的なところがあると思うかどうかたずねてみてもよい。
また、子ども時代、安心するために殻にこもる必要があったかどうかも考えよう。
挙げた特徴に自分があてはまっても、絶望することはない。
他人に侵害されたり、無視されたりする恐れを和らげる方法はたくさんある。
後退することなく身を守る戦略を打ち立てよう。
もっと人と交流するようになれば、あなたの人生はより豊かになり、孤独感は薄れる。
あなたは、より強く、より意欲的な自分、エネルギーの使い方に迷いのない自分を、実感するようになるだろう。
それは価値のあることだ。
自分にちょうどいい境界線を決める四つの秘訣
パラメーターを設定するのは、さほどむずかしいことではない。
ただ練習が必要なだけだ。
努力を要するのは、適切な―厳しすぎも、ゆるすぎもしない―境界線が引けるよう、意識を高めるという部分である。
つぎに、あなたが新たなパラメーターをつくるための秘訣をいくつか紹介しよう。
1.たぶんどっちか
より柔軟なパラメーターをつくる方法のひとつは、対応の幅を広げることだ。
児童図書館の司書であり、多作な作家でもあるスーザン・パトロンの著書に、『たぶんイエス、たぶんノー、たぶんどっちか』という魅力的な子どもの本がある。
本の中でスーザンは、登場人物の長姉に、「たぶん」と答えることによってあらゆる状況に新たな可能性をもたらす役割を与えている。
”たぶん”は、この世界が白か黒かではなく、濃淡さまざまな灰色でできていることを示している。
内向型の人は、自分の本心を問うことも、自己の考えや衝動を斟酌することもなく、外向型の人と同じ方式で決断を下そうとしがちだ。
しかし、”たぶん”は、世界を広げ、意思決定の過程に数々の展望、見解、選択肢をもたらしてくれる。
”たぶん”と答えることのもうひとつの大きなメリットは、それが”ぐずぐず考える”猶予を与えてくれることだ。
即断即決は、内向型の人にはむずかしい。
彼らには、”たぶん”という余裕が必要なのだ。
いまでも覚えているが、十代のころ、友達と電話で予定を合わせていたとき、その子がこう言った。
「ちょっと考えさせて。あとでまた電話する」わたしはびっくりした。
そうか!しばらく考えてから、返事をしてもいいのね。
それはすばらしい発見だった。
イエスという言葉には、大きな力がある。
何かしたかったら、イエスと言おう。
ノーという言葉にもやはり大きな力がある。
何かしたくなかったら、ノーと言おう。
そして、どう応じるかしばらく考えたかったら、そのときは”たぶん”と言おう。
2.ひと晩寝かす
内向型の人のほとんどは、まずたくさんの情報を取り込み、さまざまなかたちで処理してから、アイデアを得たり、決断を下したりする。
何かに着手しようというとき、彼らはよくつぎの朝まで待ちたがる。
いまでは、内向型の人たちにもそのわけがわかっている。
内向型人間が使う主たる神経伝達物質、アセチルコリンには、レム睡眠中(夢を見ている状態)に長期記憶が情報を蓄えるのをうながす働きもある。
内向型人間は、外向型人間より頻繁に長期記憶を利用するので、その情報処理方式を活かすために、ひと晩寝て考えなくてはならないのだ。
映画監督のマイク・ニコルズがかつて、あるインタビューのなかでこの無意識のプロセスについて語っていた。
彼は、アイデアはひと晩寝かせておくのが習いだと述べ、それを”よい種類の無精”と呼んでいた。
内向型人間は、しばしば、外向型人間に即答を求められる。
しかしその罠にはまってはいけない。
アイデアでもプロジェクトでも、ややこしい問題は、ひと晩寝かせて考えよう。
決断を下さねばならないとき、朝になればメリット、デメリットがもっとはっきりすることを思い出すようにしている。
ときには、脳が難題に取り組むガリガリという大音響で目が覚めるかもしれない、と思うこともある。
3.イエスと言ってみる
凝り固まったパラメーターは、通常、人生の初期につくられる。
それは、ありのままの自分(内向型)であってはいけないと感じることから生まれるのだ。
彼らには、少し時間を置き、刺激過剰となった心を鎮めてから決断することは許されなかった。
ノーと即答する人々はおそらく、子ども時代につねに何かを無理強いされていたか、圧倒される気持ちを抱きやすかったかだろう。
結果として彼らは、身を守るために、考えもせずノーと言うパターンを作り上げた。
彼らは、周囲に深い濠をめぐらせ、決してその向こうへ渡ろうとしない。
しかし、ノーの一点張りでは、世間との間に大きな溝が生じてしまう。
イエスと言う練習をしよう。
ノーと言うのをやめることはない。
ただ、あちこちにイエスも少しちりばめるのだ。
大人であることのすばらしい点のひとつは、内向型のままでいて、なおかつ、イエスと言える機会が増えることだ。
もう傷つけられたり、さげすまれたり、とがめられたりする恐れはない。
もしもだれかに傷つけられたら、声をあげればいい。
だれかが馬鹿にしようとしたら、こう言ってやろう。
「あなたには理解できないようだけど、こっちは決めるのに時間が必要なの」押し付けがましい連中は、単刀直入にこんな言葉で撃退しよう―「口出ししないでくれる?」ノーと言う以外にも、身の安全を保つ手段はある。
”イエス”は扉を開き、あなたの人生に数々のよいものを呼び込んでくれるだろう。
”ノー”の早撃ちのスピードをゆるめるための第一歩は、一週間、自らの行動を観察し、ほぼどんなときでも最初の答えがノーであるかどうかを確かめることだ。
もしそうだったら、一拍置いて、深呼吸し、自分の気持ちに目を向けよう。
あなたは、焦りや恐れや不安を感じてはいないだろうか?
恐怖から自動的に”ノー”へと一気に飛んでいくことはない。
ゆっくり選択肢を検討しよう。
まず、ひと息つくための余裕を持つこと。
「ちょっと考えさせて」という答え方もある(少し待たされただけでイライラするような人間なら、それはノーと言うべき相手だ)。
イエスと言った場合、どうなるかを想像してみよう。
それは、ほんとうに恐ろしいことなのだろうか?
何度か試しにイエスと言って、その結果を見てみよう。
必要に応じて、条件を加えてもいい―「終業後、すぐには会えないけれど、少ししてから寄るよ」そしてもうひとつ。
あなたにはいつでも考えを変え、ノーと言う権利があるのだ。
4.ノーと言ってみる
内向型人間のなかには、即座にノーと言う人がいる一方、ノーと言うことがほとんどできない人もいる。
成長の過程で、内向型の人たちはノーという返事を対立と結びつけるようになる。
対立は、内向型人間を不安にさせる。
なぜならそれは、さらなる刺激をもたらすからだ。
しかし、省エネが不可欠な内向型の人たちにとって、ノーと言えるようになるのは重要なことだ。
内向型の人たちは限られたエネルギーを何よりも必要なこと、やりたいことに注がねばならない。
境界線を設けなければ、人々はあなたの存在を考慮するのを忘れてしまうかもしれない。
彼らは内向型の人たちを踏みつけて歩いていくだろう。
もっと確固たるパラメーターをつくるためには、まず手始めに一週間、ほぼどんなときでも自分の最初の答えがイエスであるかどうか確認してみることだ。
一拍置いて、深呼吸をし、ほんとうはどうしたいのか自らの胸に問いかけよう。
自分が不安を感じていないかどうかに注意すること。
あなたは恐怖に支配され、自動的にイエスと言ってはいないだろうか?
自信がなく、プレッシャーを感じ、すぐ答えなくては、と焦ってはいないだろうか?
答える前に落ち着いてよく考えよう。
時間をかけてもいいのだと自分に言い聞かせよう。
「まだちょっとわからない」という答え方もある。
具体的に自分に何が求められているのかを考えよう。
何度か試しにノーと言って、その結果を見てみよう。
まともな人なら、それであなたを見捨てたりはしない。
見捨てる人には、もっとノーと言うべきだ。
一週間ほど自分のパターンを観察したら、そろそろ”ノー”の上級コースに進むときだ。
つぎの方法を試してみよう。
- 礼儀正しく、しかし、きっぱりとノーと言う。あやまったり、長々と言い訳したりしないこと。
- 自分の計画を最優先する―「行きたいけど、仕事を終わらせないといけないので」
- 相手に謝意や敬意を表明しつつ、ことわる―「お招きに感謝します。あの病院にずいぶん貢献していらっしゃるんですね。でも残念。今回、わたしは無理なんです。声をかけてくれて、ありがとう」
- イエスと言わなければならないなら、そこに条件をつけてみる―「お菓子の店のお手伝いはできるけれど、リサイクル品の収集のほうはちょっと」
- たいしたことでなければ、ときには深く考えずに、おもしろ半分、承知したりことわったりしてしまおう!
あなたは特別な存在だ
著書『よりよい境界線』のなかで、ジャン・ブラックとグレッグ・エンスはこう述べている。
「適切な境界線を設けるまでの道のりは、自分を大切にすることに始まって、自らの人生をつかみ、まもることへと向かっていくごく自然なプロセスである」
自分なりのパラメーターの設定とは、だれと何を受け入れ、だれと何を締め出すかを決めることだ。
それは、ふるいにかけ、分別する意識的プロセスなのである。
内向型の人はプライバシーを必要とする。
あちこちに柵がなくてはならないのだ。
自らの内向性を評価し、楽しめるようになればなるほど、あなたは自己を受容し、理解し、大きく成長することができる。
自らを有能で愛すべき内向型だと思えるなら、独自のパラメーターを設定することも可能になる。
あなたは唯一無二の存在だ。
あなたのものと同じ組み合わせの遺伝子セットは、これまで一度もなかったし、この先も二度と生まれない。
そう考えると、これはすごいことだ!
自分自身を大切に扱おう。